日本学生支援機構の「平成26年度学生生活調査」によると、学生の中で奨学金を受給している割合は5割を超えています。働き女子の皆さんの中にも、収入の中から奨学金を返還している方がいらっしゃいますよね。ある程度貯金ができてきたら、繰り上げ返済をしようかどうか迷うこともあると思います。奨学金の繰り上げ返済について、した方がいいのか・しない方がいいのかについて考えてみましょう。
【奨学金の返還】 繰り上げ返済をした方がいい? しない方がいい?
2018年2月19日
繰り上げ返済の仕組み
住宅ローンなどと同じように、奨学金も繰り上げ返済をすることができます。
奨学金の中でも多くの方に利用される日本学生支援機構の奨学金は、繰り上げ返済を“繰上返還”と呼んでいます。
まずは一般的な繰り上げ返済の仕組みについて、例を挙げて見てみましょう。
【例】第二種奨学金で、毎月10万円を4年間=480万円借りたものを返還する場合
今回は日本学生支援機構の返還シミュレーションを使い、貸与利率1.5%として計算しました。返還回数(年)は、貸与総額によって決定され、20年です。
結果は以下のようになりました。
- 貸与総額4800000円
- 貸与利率1.5%
- 返還回数 240回
- 返還方法 月賦変換
- 毎月返還額 23309円(最終回23264円)
- 返還総額 5594115円
※シミュレーションでは貸与期間をさかのぼって指定できないため、2017年4月~2021年3月と指定し計算
例の場合では毎月23309円を返還するわけですが、この毎月返還額は元金+利息で構成されています。
では、ローン計算ソフトを使って元金と利息の構成がどのようになっているかを見てみましょう。計算結果をグラフにすると、以下のようになります。
このように、初めのうちは毎月返還額の中の75%程度が元金で、残りは利息を支払っています。
そこから返還回数が進むにつれて、徐々に元金の占める割合が大きくなっていることが分かります。
奨学金の繰り上げ返済は「期間短縮型」
奨学金の繰り上げ返済は、返済期間を短くする「期間短縮型」の繰り上げ方法です。返還回数の何回分かをまとめて返済します。
繰り上げ返済のお金は、すべて元金部分に充てられます。
よって、先ほどのグラフでは、繰り上げ返済した回数分にかかっている利息を払わずに済むことになります(※据置期間利息はかかります)。
返還期間は繰り上げした回数分短くなります。また、日本学生支援機構の繰上返還に手数料はかかりません。
※補足 据置期間利息とは……奨学金の返還は、借用期間終了の半年後から始まります。その半年間の据置期間中にかかっている利息のことです。据置期間利息は、初回返還期日から最終回返還期日までの返還で均等に分割し、毎回の返還額に上乗せされています。
このように仕組みが分かると、「なるほど繰り上げ返済はおトクなのか」と思ってしまいますよね。
でも本当におトクだけなのか、繰り上げ返済のメリット・デメリットを整理して、もう少し詳しく見てみましょう。
繰り上げ返済にはどんなメリットがあるの?
繰り上げ返済のメリットとしては、次のような点が挙げられます。
総返済額が下がる
繰り上げ返済の仕組みで説明したように、繰り上げた回数分の利息をカットできるので総返済額が下がります。
グラフから分かる通り、期間が早いほど返済額に含まれる利息の割合が高いので、その効果は大きくなります。
住宅ローンの返済負担率に影響する
住宅ローンの審査項目に、返済負担率があります。返済負担率とは、年収に対するローンの年間支払額の比率のことです。
返済負担率は、住宅ローン以外のローンの支払額も足し合わせて計算しますから、奨学金が残っていれば、住宅ローンの返済額に充てられる金額が少なくなるので、住宅ローンの借り入れ可能額が少なくなります。
例えばフラット35の場合、返済負担率は年収400万円未満で30%以下、年収400万円以上で35%以下と決まっています。
年収が350万円なら
350万×0.3=105万円(年間)
105万÷12=87500円(月あたり)
というふうに計算されます。このうち奨学金が23300円返済があれば、住宅に充てられる金額は
87500-23300=64200円
となり、他に自動車ローンなどがあれば、さらに減ってしまうというわけです。
ですから、資金に十分な余力があれば、住宅購入の予定によっては、繰り上げ返済をして奨学金を返し終わっておく方が有利になる場合もあります。
気持ちが解放される(結婚などに向けて)
資金に十分な余力があれば、早めに返済を終わらせることで、返済のプレッシャーから早く解放されるのもメリットです。
結婚前に返済を終わらせたいなど、気持ちの面でスッキリできます。奨学金の返還には『もし延滞してしまったら』という不安があります。
延滞をしてしまうと通常より高い利率の延滞金がかかったり、3ケ月以上延滞すると個人信用情報機関に登録され、住宅ローンが借りられなくなったり、クレジットカードが作れなくなったりすることもあります。
このような延滞のプレッシャーからも、返済が早まれば早く解放されます。
その後の貯金に回せる
奨学金を早く返し終わったら、その後は奨学金返済に充てていた金額を「別の目的の貯金」に回せるようになります。
繰り上げ返済によって一度貯金は減ってしまいますが、住宅購入や老後資金など、将来に向けた新しい目標に切り替えて貯金を開始することができます。
繰り上げ返済をして困ることはないの?
反対に、繰り上げ返済をしたことで困った事態になることもあります。それは、「手持ちの貯金が一気に減る」という点です。
その後のことをよく計画しておかなければ、資金不足になってしまいます。
しっかりと計画する必要アリ
貯金が減ったあと、どれぐらいのペースで貯めていけるかをよく考えておかなければなりません。
例えば、貯金が一気に減ったあと思うように貯金が戻らず、自動車の買い替えの資金が足りなかったとします。そこでマイカーローンを借り入れたとしたら、その利息は奨学金よりも高い利息が付くことになります。
奨学金は、他のローンに比べて金利が低いのが特徴です。ですから、貯金が無くなることでマイカーローンなどを借りるぐらいなら、金利の低い奨学金を返していく方がいいということです。
注目すべきは利息
「もともとの金利が低い」という点に注目すると、繰り上げ返済によってカットされる利息分の金額も、実は他のローンの繰り上げ返済の効果に比べて小さいということになります。
つまり、繰り上げ返済のメリットはあるものの、“無理をしてまで”繰り上げ返済をしなければならないほど、メリットは大きくないということなのです。
結論!繰り上げ返済をした方がいい?しない方がいい?
このように、奨学金の繰り上げ返済についてメリット・デメリットを考えてみると、繰り上げ返済をした方がいいかどうかは、次のように整理されるでしょう。
貯金に十分なり余力があり、繰り上げ返済をした後も手持ちの資金がある程度残るのであれば、繰り上げ返済をしてスッキリしてもいいでしょう。
一部繰り上げ返済をする場合でも、貯金を使い切らないように注意します。
繰り上げ返済をできる程度の貯金はあるけれど、「今は特に返済を急ぎたい理由はない」のであれば、余力を残してコツコツ返すのも良い方法です。
繰り上げ返済は「やろうと思えばできる」という状態で資金をキープしておけば、結婚や住宅購入のタイミングで身の振りようを考えることができます。
車や大物家電の買い替えなど、まとまった支出の予定がある人は、無理に繰り上げ返済を優先する必要はありません。
万が一、資金不足になってしまい延滞の記録が残ったら、その方が後々の影響は大きいです。
繰り上げ返済をするかどうかは、今の貯金額だけでなく、今後のライフプランも見越して判断する必要があります。
長い目でメリット・デメリットを考えてみてくださいね!