高齢社会で認知症の人が増えてきています。一見、普通の人と何ら変わらないように見えてもどこかよく観察していると、ふとしたことができなかったり、わからなかったり、いわゆるまだらボケのような症状もあります。そういった認知症のひとつの症状である「見当識障害」は非常に厄介な症状といわれています。
認知症や脳の障害が起きたときの「見当識障害」とは?
2022年5月3日
見当識障害とその症状について
見当識障害とは
見当識とは、日時や季節、場所、人物など自分が置かれている状況を正しく認識する能力のことで、 「見当識障害」とは、日時や季節感、場所の感覚、人物関係がわからなくなることをいいます。
認知症だけでなく、何らかの形で脳の障害が起きたとき、症状が進んでくるにつれて出てくる症状のひとつが「見当識障害」です。
ですので、非常に厄介な症状ですが、高齢者だけでなく、若い世代でも起こりうるのです。
見当識障害の症状とは
見当識障害では、「脳の働きの低下による症状」と、「環境や体験・気質による症状」 とがありますが、具体的には次のような症状が出ます。
(1) 日時や季節の認識について
年月日や時間、曜日の感覚がなくなることにより、遅刻をしたり、外出の準備ができなくなります。
さらに症状が進むと、何回も今日は何年何月何日かと聞いたり、自分の年齢は何歳かと聞いたりするようになります。
夜10時をまわったのに、新聞の朝刊を自宅の郵便受けまで取りにいこうとするなんてこともあります。
季節がわからなくなるので、夏なのに冬のような防寒の服装をしたり、冬なのに夏のような涼しい恰好をするなど、季節に合った服装を選ぶことができなくなります。
(2) 場所の認識について
方向感覚もなくなってくるので、周りの景色やなにかしらの目印でなんとかわかることもありますが、夜になって暗くなると周りの景色や目印も見えにくくなるために道がわからなくなることもあります。
さらに症状が進むと、近所で迷子になったり、自宅でもトイレやお風呂の場所がわからなくなったりします。
また、普通なら歩いて行かないようなところまで、ひたすら歩いて遠くまで行ってしまうこともあります。
(3) 人物の認識について
比較的、人物に関しての見当識障害は症状が進行してから出てくることが多いです。
自分の年齢や周りの人との関係、さらには過去に亡くなった家族や親せきや知人の記憶もなくなり、自分がまだ若いままの年齢だと錯覚をしたり、亡くなった人が生きているように感じていたりします。
見当識障害の対処法について
(1) 日時や季節の認識について
日時の見当識障害に対しては、カレンダーや手帳を常に目立つところに置き、朝起きたときや日中決まった時刻を決めて、声に出して「今日は何月何日何曜日」と言いながら印をつけたりします。
季節の見当識障害に対しては、「今日は暑いからエアコンをつけよう」とか「今日は寒いから、暖かい恰好をしよう」と声がけをして、季節を意識させるようにします。
(2) 場所の認識について
自宅においては、トイレや洗面所、寝室などそれぞれの部屋の場所をいたるところにわかりやすく表示をして、自宅内でも場所がわからなくならないようにします。
外出しなくなるとそれはそれでかえって症状が進んでしまいますし、体力や筋力も衰えてしまいますので、外出しないようにするのではなく、家族に限らず、ヘルパーさんなど誰かが付き添って出かけるようにします。
また、万一ひとりで出かけて迷子にならないように、常に、本人には緊急連絡先を記入したメモなどを洋服のポケットに入れたり、GPS機能のついた機器を持たせたりするようにします。
(3) 人物の認識について
本人に、「私はあなたの子どもの○○です。」のように、本人との関係と名前を伝えるようにします。
ただし、本人に自分が誰だかわかるか、のように質問や確認をするのは、本人の気持ちを焦らせてしまい、かえって症状が悪化することもあるので注意をしましょう。
見当識障害の予防策について
見当識障害を予防するには、毎日しっかりと規則正しい生活をすることがすることが大切です。
ウォーキングなどの有酸素運動をすること、緑黄色野菜や果物、魚を中心に栄養バランスの整った食事をすること、趣味やボランティアを通じて人と交流をすることは、見当識障害の予防策となります。
また、 複数のことを同時に行うこと、行動記録や食事記録、日記をつけること、何かをするときに効率よく手順や段取りを考えて行うことなども見当識障害の予防策となるでしょう。
見当識障害の症状があらわれたら、放置をせず、早期に病院で治療をすることも大事です。
まとめ
いつ誰が発症するかわからない見当識障害ですが、あらかじめ予防策を知っていれば心構えや対処もできますし、対応策を知っていることにより、大きな事故や症状の悪化も防ぐことができます。
また、これらの症状が出た人をサポートするのは、必ずしも家族だけではありません。
医師を始めとした病院関係の方々、ヘルパーさん、地域の人々等の知識や技術、制度といった複数の支援があります。
見当識障害は上手に対処することにより、ある程度自立した生活をしていくことも可能ですので、少しでも症状が現れたら、早期に病院で治療を開始し、上手に症状と付き合っていくようにしましょう。
※本ページに記載されている情報は2022年3月20日時点のものです