近年、親の介護が原因で、後々相続のトラブルに発展するケースが多く見られるようになりました。中でも、認知症によって介護が必要になった場合、相続にまつわるトラブルはより深刻になります。もし親が認知症を発症してしまった場合、どのような相続への準備が必要となるのでしょうか。各種制度の内容とともに財産管理や遺言書作成の準備などについて解説します。
合わせて必要となる認知症介護と相続への準備とは
2021年3月26日
各種制度は相続準備に活用できるのか
高齢者および判断能力が不十分な人の財産を保護したり、生活をサポートする制度には、「日常生活自立支援事業」や「成年後見制度」、「家族信託」などがあります。これらの制度は相続準備においてどのくらい活用できるのでしょうか。
日常生活自立支援事業
都道府県・指定都市社会福祉協議会が主体となっており、窓口業務を行う市町村の社会福祉協議会で利用契約を結び、所定の料金を支払うことで、専門員による各種サービスについてのサポートを受けることができます。サービスの内容は、福祉サービスの利用援助、日常生活上の消費契約および行政手続に関する援助、日常的金銭管理サービス等で、あくまでも、日常的な金銭管理や重要書類等の預かり・保管などの支援にとどまります。したがって、相続の事前準備への活用は適当とはいえません。
成年後見制度
成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類があり、前者は、すでに判断能力が不十分な人のために後見人等を選任し支援する制度で、後者は、将来判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、本人が十分な判断能力があるうちにあらかじめ自らが選んだ任意後見人に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約を結んでおくものです。両者ともに被後見人の利益を考えながら財産管理や契約などの法律行為について、被後見人を保護・支援することができます。
制度利用に当たってはいずれも家庭裁判所への申立て手続きが必要ですが、後見人という立場上、被後見人の財産を活用したり処分するなどはできないため、子が親の財産から生前贈与を行ったり保険に加入したりなどの相続対策行為はできません。
民事信託
民事信託とは信託法という法律を利用して、資産を信頼する家族に託し、その管理や処分を任せる仕組みです。分かりやすくいうと、財産を持っている人が委託者となり、財産を管理する人を受託者、利益を享受する人を受益者として、委託者がある特定の目的のために受託者に財産を預け、その利益は受益者が受け取ります。例えば、大病を患った父親(委託者)が娘(受託者)に財産を管理してもらい、父親の弟(受益者)の事業に定期的な資金援助を行います。
この民事信託は「物権の債権化機能」を持っているため、不動産など、一つの固まった所有権(物権)であったものを、融通の利く受益権(債権)に変えることができます。。特定の子に資産を集中して承継させたい場合や、柔軟に資産承継をしたい場合などに有効です。また、二次相続以降の承継者を指定することもでき、裁判所の関与なしで資産運用や相続税対策を行うことができるということで近年注目されています。
認知症をめぐる相続トラブルとその対策について
被相続人が認知症で、相続人の一人が被相続人の介護に携わっていたような場合、多く見受けられるトラブルは、介護に携わっていた人が、他の相続人から、被相続人の財産窃取を疑われるケースです。この場合、どのような対策をとるべきなのでしょうか。
親の財産管理
子が、認知症の親の介護とともに財産管理をする場合、他の相続人から財産を窃取したのではないかと疑われたり、トラブルになることを避けるための対策としては、以下の2点が有効です。
・必要なお金は必要な都度引き出し、まとめて引き出さない
・お金の流れが明確に分かるよう、領収書や現金出納帳、使った費用に係る資料などもすべてこまめに残しておく
遺言書
認知症、またはその疑いがあった被相続人の遺言書があった場合、その内容をめぐり他の相続人から無効を主張されるケースも考えられます。この場合重要なのは、被相続人が自身の意思で遺言書を作成したのかどうか、かつ、遺言書作成時に十分な判断能力、意思決定能力を有していたか否か。です。このような問題に対する対応策として考えられるのは以下のとおりです。
1.作成時は被相続人に遺言能力があったことを確認できる医師の診断書を取得しておく。
2.担当ケアマネジャーや介護職員に被相続人の状態を聞き、書面に残しておく。
他にも、被相続人が当時病院にかかっていた場合は、看護師との会話等で意思疎通ができていたことが分かる看護日誌や、医師や看護師とのやり取りを克明に記入した付添人の日記なども助けとなる場合があります。
被相続人である親が認知症を発症してしまってからでは、相続人である子が「準備」として打てる有効な手立てはほとんどないと言っても過言ではありません。相続準備は、できるだけ早いうちに整えておくことが最も重要です。そのためにも、親が元気で判断能力があるうちに、資産の把握や相続についての意思確認を始め、相続が開始した場合はどうするかなどについて、家族間できちんとした話し合いの場を設け、具体的な取り決めをしておくようにしましょう。
※本ページに記載されている情報は2021年3月5日時点のものです。