派遣社員の働き方に影響を与える「同一労働同一賃金」。2020年4月から開始されるこの制度により、派遣社員の給料・働き方が変わる可能性があります。同一労働同一賃金が派遣社員へ与える影響について触れつつ、この制度がもたらすメリット・デメリットについて解説していきます。
同一賃金同一労働で
派遣社員の給料が上がる?
2020年2月24日
同一賃金同一労働はどういった制度
これまでは正社員と派遣社員などの非正社員では待遇に差があり、給与や福利厚生で受けられるサービスも異なっていました。業務内容や仕事に対して負う責任が違ってくる場合、そういった給与や福利厚生の違いは仕方ありません。
しかし、仕事の内容や負担が正社員と非正社員で同様の場合、こうした身分の違いは持続可能な社会を形成していくうえで改善が必要なことです。
働くうえでの環境を整え、労働者一人当たりの生産性を高めるため、政府はこれまで、「長時間労働の是正」や「柔軟な働き方の整備」といったさまざまな施策を実施してきました。
こうした施策は働き方改革と呼ばれており、「働き方改革関連法」が2019年4月から施行され始めました。同一労働同一賃金は、こうした働き方改革の施策メニューの1つであり、対象となる労働者は、派遣社員・パートタイム労働者・有期雇用労働者です。
2020年4月1日には改正派遣法が施行され、派遣社員の同一労働同一賃金が実現されていくことになり、中小企業は2021年4月1日から法律が適用されます。中小企業とは、資本金の額、もしくは出資の総額が3億円以下で常時使用している労働者の数が300人以下の事業主のことです。
そのため、今後は正社員と派遣社員の格差が是正されていくことになります。
派遣社員の給料はどう変化するのか
同一労働同一賃金により派遣社員の賃金の決め方が変化します。派遣社員の賃金を決めている人材派遣会社に対して、賃金の水準を派遣先の正社員に合わせることが求められるからです。
そのため、法改正が行われると「派遣先均等・均衡方式」、「労使協定方式」の2通りの賃金の決め方が定められ、人材派遣会社はどちらの方式を採用するかを選択しなければいけません。
1.派遣先均等・均衡方式
この方式では、人材派遣会社は派遣社員の賃金に対して、「派遣先で同様の仕事を行っている正社員と同等にする」ことが求められます。賃金の決定にあたり、派遣先の企業が同様の仕事を行っている正社員の待遇情報を人材派遣会社に提供し、その情報をもとに派遣会社が派遣社員の賃金を決めます。
そのため、派遣社員は派遣される企業の変更により、賃金を決める基準も変化する点には注意が必要です。派遣先均等・均衡方式は同じ職場で同様の仕事を行う正社員との不公平感はなくなります。
一方で、派遣先の変更により賃金が変わるため、給料が上がったり、下がったりしてしまうことは覚えておきましょう。
2.労使協定方式
人材派遣会社と派遣社員が協議を行った後に労使協定を結び、派遣社員とその地域で同種の業務で働いている正社員の平均賃金と同等以上にする方式です。派遣先均等・均衡方式では、派遣先の企業が変わるたびに賃金が変わります。
しかし、労使協定方式では、働く地域や職種ごとに厚生労働省が定期的に示している賃金統計データを算出基準としており、労使協定で平均的な賃金と同等以上の賃金を定めます。そのため、賃金の水準が低くなる心配が不要で給料が安定します。
ただし、派遣先の社員と賃金の差が生じる場合などがあるため、必ずしも派遣先の正社員と同一労働同一賃金になるわけではありません。
派遣社員にとってのメリット・デメリットは
同一労働同一賃金は派遣社員の待遇改善に繋がる制度です。この制度で理解しておきたいのは派遣社員にとってメリットがあるばかりではなく、一方でデメリットが存在していることです。
どのようなメリット・デメリットがあるのか解説していきます。
メリット1.給料が上がり仕事に対するモチベーションが上がる
同一労働同一賃金では賃金の向上が見込めるだけでなく、交通費や各種手当、退職金が支払われるようになるなど待遇の改善により、手取りで得られる金額の増加が期待できます。
また、自分の働きに応じて給料が貰えるようになるため、「仕事を一生懸命行っているのに評価されない」といった状況の改善も期待できるでしょう。こうした正社員と派遣社員との待遇の改善により、仕事に対するモチベーションが上がります。
メリット2.社員が活躍する機会を得られる
同一労働同一賃金は賃金だけでなく、教育訓練の機会や福利厚生も改善対象です。
そのため、これまでは教育訓練を受けられず、職務に必要となる知識や技能を身につけられていなかったとしても、今後は教育訓練を受けられる機会が増えるため、能力の向上が目指せます。
また、このように雇用形態を問わずに労働者に成長する機会が与えられることで、キャリアアップを目指すことが可能です。
同一労働同一賃金の施行により、正社員と派遣社員との待遇格差がなくなることで、今後は仕事ができるかどうかという価値判断に基づき仕事を得られることが期待されます。
そうなれば、派遣社員であっても、正社員のように時短勤務などのさまざまな働き方を選択しやすくなり、活躍する機会を得やすくなるでしょう。
メリット3.待遇の説明が受けられる
派遣社員であっても、正社員との待遇差の内容や理由について説明を求める権利が与えられるため、待遇差に疑問があれば、説明を求めることができます。
また、説明を求めても不利益な扱いをすることは法律で禁止されているため、減給などの不利益を受ける心配はありません。
デメリット1.仕事に対する評価が厳しくなる
正社員と同様の賃金が支払われることになるため、今後派遣社員に対する仕事の評価が厳しくなり、正社員と同様の働きを求められることになります。
そのため、雇用形態による仕事への判断の優劣がなくなり、仕事ができないと判断されれば、派遣の契約を延長されない可能性があるので注意が必要です。
デメリット2.業務内容の違いを明確化する企業が増える
派遣社員と正社員の「同一労働」を認めることで、企業の人件費が増加するため、同一労働とならないように、業務内容の違いを明確にする企業が増える可能性があります。
たとえば、難しい業務を正社員が行い、簡単な業務を派遣社員が行うというケースが考えられるでしょう。このような状況になると、派遣社員の仕事内容に制限が生じ、高度な業務を行えなくなり、スキルアップの機会が減少する可能性があります。
今回は、同一労働同一賃金について解説してきました。派遣社員の方は、この制度が施行されることで給料は上がる可能性があります。また、待遇が改善されるなどメリットは大きいものの、デメリットがある点は注意が必要です。同一労働同一賃金について把握したうえで、働き方について考えてみましょう。
(※本ページに記載されている情報は2020年2月24日時点のものです)