もしも海外旅行中に病院に行かなくてはならないほどの病気やケガをしてしまうとしたら、医療費の対策はどうすればいいか知っていますか?海外で病院に行っても日本の健康保険は使えませんから、全額を支払うことになり負担が大きくなってしまいます。しかし、実は後からお金を戻してもらうこともできるのです。楽しい海外旅行に行く前に考えたくはないことですが、もしもに備えて出発前に必要条件などを確認しておきましょう。
出発前に知っておこう!
海外で病院に行っても高額療養費
2020年1月17日
海外旅行中に病院に行くときの「海外療養費制度」について知っておく
まずは海外で病院に行くときの流れについて確認してみましょう。ここでは民間の海外旅行保険に加入していない場合の、一般的な流れについて説明します。
日本であれば病院窓口で健康保険証を提示して、自己負担割合分として請求された3割分だけ支払えば良いですね。しかし、日本国外では日本の健康保険証は使えません。現地に公的医療保険がある場合でも、旅行者など現地の医療保険に加入していない人は現地の公的医療保険も使えません。そのため現地の医療費基準で100%請求され、そのとおりに支払わなければなりません。
そんなときのための海外療養費制度について知っておきましょう。海外療養費制度は旅行が終わって帰国した後に自分が加入している(国民)健康保険に請求することで、日本で病院にかかった場合と同様に、3割の自己負担を引いた残りの7割を健康保険が還付してくれるというものです。
ただし、海外で支払った金額の7割が必ず戻ってくるわけではなく、あくまで日本でも「保険診療として認められているものである」ということと、「日本の医療費基準に合わせて計算した場合の7割」ということが条件です。
グローバルな現代の世の中ですから治療法や技術は同様の場合があるかもしれません。しかし、実は医療費基準は国や地域によって異なります。一例として盲腸手術をしたときにかかる総費用の違いを見てみましょう。
出典:社団法人 日本旅行業協会「旅立つ前の安心ガイド(海外旅行保険編)」
これを見てわかるように、国や地域によっては2日の入院および手術で200万円近くも支払わなければならない場合があるようです。
前述したように、海外療養費の還付に対する金額を計算する際には、「日本国内の医療機関等で同じ傷病を治療した場合にかかる治療費」を基準に計算されます。たとえば医療費の高い国で盲腸の手術を受けて200万円相当を払ったとしても、仮に、日本での盲腸手術および入院にかかる医療費が30万円であれば、海外療養費の計算基準は30万円として計算されることになります。
計算式で表すとこのようになります。
30万円×70%=21万円
つまり、海外療養費として還付される金額は21万円になります。
ちなみに、仮に海外で支払った額の方が日本の医療費基準よりも低いときには、海外で実際に支払った金額を基準として計算されます。このことも知っておきましょう。
外務省のHPにある「世界の医療事情」も現地の医療事情を知るための参考になりますよ。
知っておいて損はない!海外治療でも高額療養費制度
海外療養費の還付を受けることができるため、全額自己負担をするわけではないということがわかれば安心ですね。しかし、先の例では、21万円の還付があっても払った金額は200万円ですから、結局は179万円と巨額なお金を自分で払わなければならなくなります。
海外旅行先で病院に行く場合のすべてがこのような多額の医療費になるとは限りませんが、旅行費用よりもはるかに大きな金額を払うことになるケースは多々あり得そうですね。
ところで、このように医療費の自己負担が高額になった際の制度として、日本では「高額療養費制度」がありますね。高額療養費制度についてなんとなく知っているけど、よく分からないという人は「医療費を大幅に下げる!高額療養費の申請の仕方・もらい方~申請方法編~」を参考にしてみてください。
さて、この高額療養費ですが、海外で病気やケガで病院に行き医療費を支払った場合でも、日本の健康保険から払い戻しをしてもらえるのはご存じでしょうか。
高額療養費を還付してもらうための条件は、先ほど見た海外療養費と同様です。あくまで日本でも「保険診療として認められているものである」ということと、「日本の医療費基準に合わせて計算する」というものです。
先に見た盲腸手術・入院を例に、あらためて確認してみましょう。
先のケースのように、日本で盲腸手術・入院をした場合の医療費は30万円だとしましょう。そうすると本来の自己負担額は3割にあたる9万円となります。
日本の高額療養費制度で決められている1カ月当たりの自己負担限度額は各人の所得と年齢により異なりますが、ここでは自己負担限度額が57,600円としましょう。そうすると9万円は払い過ぎたことになります。そこで、払い過ぎとなる32,400円が高額療養費として払い戻されることになります。
このケースでは、海外療養費として還付される21万円に加え、高額療養費として3万2,400円が還付されることになります。支払った200万円のうち、24万2,400円は還付され、175万7,600円が自己負担となります。
海外で医療機関にかかったときの医療費負担と、日本の健康保険からの還付の関係をおわかりいただけたでしょうか。
なお、「医療費を大幅に下げる!高額療養費の申請の仕方・もらい方~申請方法編~」の記事でも説明していますが、そもそも高額医療費は健康保険が適用になる診療・治療にしか払い戻しされません。たとえば入院時の差額ベッド代や先進医療費用など、健康保険の対象にならない費用に対しては払い戻しがされないことは知っておきましょう。
より安心して出発するために
もしも海外旅行中に病院に行かなくてはならないことになっても、後日健康保険から医療費の一部が戻ってくることがわかると安心ですね。しかし、これらの制度は自動的には還付されず、あくまで知っているかどうかで払ったお金を取り戻せるかどうかが変わります。
そこで、出発前に次のような対策をおすすめします。
還付申請書類を確認しておく
海外療養費も高額療養費も、申請する際には海外で診療を受けた医療機関に記載してもらった所定の診療内容証明書や領収証明書を提出することになっています。
これらの書類は協会けんぽや自治体のウェブサイトなどからダウンロードし、印刷して使用できます。とはいえ旅行先でプリントアウトするのは容易ではない場合がほとんどです。あらかじめプリントアウトして持参しておくといいでしょう。
なお、現地で支払った領収証の原本も必要です。忘れずにもらうようにしてください。
海外旅行保険に加入しておく
後日海外療養費と高額療養費が還付されるとはいえ、旅先の医療機関では一旦、自分で立替え払いしておかないといけません。国や地域の医療費基準、治療の内容にもよりますが、場合によってはクレジットカードの利用限度額を超えてしまう可能性もなくはありません。
そこで民間の海外旅行保険に加入しておくことも検討してみましょう。保険会社によっては、提携先医療機関で治療を受けることで、このような立替え払いをする必要がない場合もあります。海外旅行保険は出発後には加入できませんから、出発前に加入しておいてください。
体調を崩さない対策も
お金の対策はもちろんのことですが、せっかくの海外旅行をしっかり楽しめるよう、体調を崩さない対策をしておきましょう。
健康には自信がある、普段よく歩くから大丈夫という人は多いですが、日本と環境が異なる海外では、普段健康であっても体調を崩しやすいものです。実は筆者も年末年始に休暇でフランスに遊びに来たある働き女子が、旅先でクタクタになり具合を悪くした事実に遭遇したばかり。
普段忙しくしている働き女子のなかには、休暇の旅行でホッとすると同時に、飛行機に乗った時からなんとなく普段の疲れが出てきやすくなる人も少なくないようです。健康を過信することなく、さまざまな対策をしておきましょう。「準備は万全?海外旅行に出かける前に、スーツケースに入れておきたいアイテムは?」の記事も参考にしてください。
(※本ページに記載されている情報は2020年1月17日時点のものです)