大きな住宅ローンを抱えている人の多くが抱える返済の重み。早く返して楽になりたい――そんなふうに考えている人は少なくないはず。
ボーナスなどのまとまったお金が入ったり、ある程度の貯金ができると、思い切って返済してしまいたくなりますが、早計な考えで繰り上げ返済をするのはおススメできません。住宅ローンの繰り上げ返済には、返済額を少なくするというメリットがありますが、マネープラン全体で考えるとメリットばかりとは言い切れないんです。
そこで、住宅ローンの早期返済を考える人に知っておいて欲しい注意点を説明します。
ちょっと待って。
住宅ローンの繰り上げ返済で
損してしまうかも
2017年11月1日
繰り上げ返済、メリットばかりではありません
繰り上げ返済をすることでローン残高が減るのは大きなメリットと言えますが、実はメリットばかりではありません。
手持ちのお金は大丈夫?
たとえばある程度の貯まった貯金を返済に充てると、手持ちのお金がなくなってしまいます。
当面使う予定のなかった貯金でも、病気、災害、失業などの予期せぬ事態が突然身に降りかかり、急に必要になる可能性が全くないとは言えません。
そんなときに手持ちのお金がなければ先々のローン返済どころか生活に支障をきたしてしまいます。
保障はOK?
もう一点、繰り上げ返済で気をつけたいのが万一の場合の保障です。一般的に住宅ローンの条件として、団体信用生命保険(団信)に加入する人がほとんどでしょう。
団信に加入することでローンの返済中に負債者に万一のことがあっても、保険でローン残高を返済してくれます。
しかし団信は一般的な生命保険とは異なり、「保険金額=ローン残高」。つまり、繰り上げ返済などによるローン残高の減少とともに保障額も減少します。
住宅購入して団信加入と引換えに、保険料節約で生命保険を解約した……なんていう場合、万が一のことがあっても手元のお金がなくては遺族の生活保障もできません。
ローン返済しても純資産は増えません
家計の財務面で考えてみましょう。繰上返済をすると負債は減少しますね。しかし、だからといって資産が増えるわけではありません。
シンプルな例で確認してみましょう。
住宅価格3,000万円、ローン残高2,000万円、貯金1,000万円あるとします。
このときの資産額は、3,000万円+1,000万円=4,000万円です。負債はローン残高の2,000万円であるため、資産から負債を引いた純資産額は4,000万円‐2,000万円=2,000万円です。
では、貯金1,000万円を繰り上げ返済に充てるとしましょう。ここでは繰り上げ返済にかかる手数料や利息は考慮しないものとします。
負債額は2,000万円-1,000万円=1,000万円に減りますが、資産額は貯金がなくなり、住宅価格の3,000万円だけ。純資産は3,000万円-1,000万円=2,000万円です。
繰り上げ返済で負債額が減っても純資産が変わらないことが分かったでしょうか。
住宅ローンの金利VS資産運用の金利、どっちがおトク?
繰り上げ返済をすることで、ムダな利息の支払いを軽減できるのはメリットのひとつです。
しかし金利面で考えてみると、ムダな利息を払い続けながらも、それを上回る金利で資産運用し、お金を増やすことを検討するほうが賢明かもしれません。
ローンの金利もしっかりチェック
住宅ローンの金利水準は時期、金利タイプ、ローン期間などの様々な条件によって変動しますが、低金利が長く続く状況下、日本住宅支援機構のフラット35の金利は平成24年5月以降、最高金利が3%を超えることがありません(※)。
それなら、貯金の一部を投資に回し、投資信託などで3%を超える運用を行えば、差し引き、数%のおトクになる可能性があります。
※返済期間が21年以上35年以下、融資率が9割以下の場合
純資産を増やすことを考えて
繰り上げ返済をしても家計の財務面では変わらないものの、貯金がなくなることで家計のキャッシュフローは圧倒的に悪くなってしまいます。
ちょっとお金が貯まったら繰り上げ返済で負債を減らすことよりも、資産運用などでまずは純資産を増やすことを考えましょう。
住宅ローン控除も忘れずに
そのためには運用による利息収入もありますが、住宅ローン控除も忘れずに検討するようにしましょう。住宅ローン控除では、年末時点の住宅ローン残高の1%(40万円限度)が所得税から控除され、還付されます。
仮に、年末時点のローン残高を2,000万円とすると、還付額は20万円。ところが1,000万円を繰り上げ返済し、残高が1,000万円になれば還付額は10万円に減少してしまいます。
そもそも住宅ローンの返済額は月々の収入と必要な支出、将来必要となるお金の預貯金計画、返済期間などをもとに、入念にシミュレーションして割り出されているはず。
その金額を○○年間にわたって返していく覚悟でローンを組んでいるはずです。
マネープランを立ててローン計画をしているのなら、無理矢理ローン返済を早める必要はありません。
自分自身のライフプラン、そしてマネープランにあった方法で住宅ローンの返済について考えてみてくださいね。