老後の収入源として、公的年金を重視する方は少なくありません。
公的年金にはいくつか種類がありますが、そのうちの老齢年金(老齢基礎年金、老齢厚生年金)に、繰り上げと繰り下げの制度があります。
2022年4月から、老齢年金の受給開始年齢が60歳~75歳の間で選べるように上限拡大されました。
知っておきたい年金の繰り上げ、繰り下げの基本知識について簡単にご紹介します。
年金の受給開始年齢は60歳から75歳の間で
選べます! ~女性の平均寿命は87.74歳~
2022年5月6日
年金は何歳から受給できる?
繰り上げと繰り下げの制度がある
私たちが、一般的に年金と呼ぶことが多い老齢基礎年金、老齢厚生年金は、原則65歳からの受給となっています。
しかし、これらは繰り上げてもらうことも繰り下げてもらうこともできます。
【繰り上げ受給】
・60歳から65歳までの間に繰り上げて受給できる(早くから受給開始できる)
・年金額は減額される
【繰り下げ受給】
・66歳から75歳の間に繰り下げて受給できる(遅く受給開始できる)
・年金額が増額される
70歳から75歳に上限が拡大
繰り下げ受給を始められる期間は、もともと66歳から70歳までの間でしたが、令和4年4月から75歳までに上限が拡大されました。
原則、繰り上げ請求は、老齢基礎年金と老齢厚生年金の2つを同時に行うことになっています。また、繰り上げ請求後の取消はできません。繰り下げ(※)は、別々にできます。
※特別支給の老齢厚生年金という制度もあり、こちらには繰り下げ制度がありませんが、女性の場合で昭和41年4月1日以前に生まれた方が対象の年金のため、それ以降に生まれた方には関係ありません
また、繰り下げをやめたいと思ったときは受給の申請をすればそこから受給できることになり、5年分までであればさかのぼった分の一括受給(増額分は取り消され65歳時点での受給額で計算※2)もできます。
※2 2023年4月1日からは、さかのぼった時点での増額の割合での計算に変更されます
繰り上げによる減額と繰り下げによる増額
終身の受給に影響する増額と減額
年金の受給開始が早ければ早いほど、もらえる年数が増えておトクなのでは?と感じるかもしれませんね。しかし、繰り上げると減額され、繰り下げると増額される制度である点に注意が必要です。
年金は、終身で給付されます。そのため、何年生きるかによりトータルでもらえる金額が変わります。減額されても早くから受給することでおトクになる場合と、(長生きすることで)そうでない場合があり、受給を遅らせて増額しおトクになる場合と、(あまり長生きせず)そうでない場合があるのです。
繰り下げの上限年齢が引き上げられ増額分も広がった
繰り上げによる減額、繰り下げによる増額の割合は、それぞれ下記のとおり。
・繰り上げたとき(減額)
0.4%(1ヵ月あたり)
・繰り下げたとき(増額)
0.7%(1ヵ月あたり)
1ヵ月あたりの数字だけではピンとこないかもしれませんが、12をかければ1年分、それに年数をかければ年数分の割合となります。
【繰り上げによる減額の割合の例】
・1年の繰り上げ・・・4.8%減額
・5年の繰り上げ・・・24%減額
【繰り下げによる増額の割合の例】
・1年の繰り下げ・・・8.4%増額
・5年の繰り下げ・・・42%増額
・10年の繰り下げ・・・84%増額
出典:日本年金機構(https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2022/0228.html)
繰り下げ可能期間が5年から10年に上限が広がった結果、増額分も42%から84%へと大きく広がったのです。
ライフプランの中で考える受給開始のタイミング
損益分岐点はどのあたり?
早くからもらっていた人がどのくらい長生きをしたらトータルで損になるのか、遅くからもらう人がどのくらい長生きしないと得にならないのか、具体的な年齢で知りたいと思う方もいるでしょう。
税金などで手取りが変わるといった細かい点をおいておき、減額分、増額分だけの目安の話であれば損益分岐点の計算は簡単です。例えば5年早く受給しようとすると24%の減額になるわけですから、
(同額になるときの追加年数 + 5)×(1-0.24)=同額になるときの追加年数×1
上記の計算の結果が15.8となるため、65歳に16年を足した81歳が損益分岐点です。
同じように、10年遅く受給しようとすると84%増額ですから
(同額になるときの追加年数 - 10)×(1+0.84)=同額になるときの追加年数×1
を計算します。こちらのケースでは21.9となるので87歳(65歳+22年)が損益分岐点です。(5年遅い場合では82歳)
女性の平均寿命は87.74歳
上記の損益分岐点の年齢を受給開始年齢の検討に生かそうと考えるとき、平均寿命も大切な情報のひとつとなります。厚生労働省の簡易生命表(令和2年)によると、女性の平均寿命は87.74歳(男性は81.64歳)。
とはいえ、個人個人で異なることが前提の寿命ですから、受給開始年齢は、自分のライフプランをもとに自分の意思で決めるのが望ましいでしょう。
例えば、60歳時点での貯蓄額、収入と支出のバランスの見込み、何歳まで働くのか、どのくらい働くのかなどが大事な判断材料となります。資産運用プランともあわせ、受給開始年齢を迎える前の余裕をもった時期に検討しておくと安心です。
※本ページに記載されている情報は2022年3月14日時点のものです