当コラムの読者の皆さんのなかには、医療費が高額になっても健康保険から払い戻しされる制度があることをご存じの人は多いと思います。でも、「高額療養費」「高額医療費」「限度額認定証」など、いくつか似たような言葉がありますが、これらは似ているようで、内容が少し異なるもの。いざという時に安心して医療機関にかかれるように、それぞれの制度の内容を確認しておきましょう。加入している公的医療保険によって申請先が異なりますから、自分の場合はどこに申請するべきか、正しく知っておきたいですね。
高額医療費に関する申請はどこでする?
公的医療保険別にチェック
2020年1月27日
高額な医療費負担を防げる!? 知っておきたい3つの制度
病気やケガなどで入院や通院が続くと、高額な医療費を払わなければならなくなることがあります。そんな場合でも、公的医療保険の保障が効いて過度な負担になることを避けられる制度があります。そのひとつが高額療養費制度ですが、実際にお金を払ったり、請求したりするとなると、混同してしまう人も多いようです。医療費負担に不安を感じることのないよう、次の3つの制度の内容と違いを整理しておきましょう。
高額療養費制度
「医療費を大幅に下げる! 高額療養費の申請の仕方・もらい方 ~申請方法編~」の記事をはじめ、このコラムでも何度か取り上げ説明されていますので、高額療養費制度という言葉や制度の内容をなんとなく知っている人は多いと思います。
おさらいとして確認しておきましょう。
私たちが加入している公的医療保険(国民健康保険・健康保険など)では、1カ月当たりの医療費の自己負担限度額が決められています。自己負担限度額は年齢および年収によって決まるため、人によっては異なる場合があります。自分の場合がいくらになるのかは、こちらの表で確認してください。
出典:厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ(平成30年8月診療分から)」
これは、69歳以下の人の場合に適用される自己負担限度額ですが、69歳以下であれば、加入している公的医療保険は国民健康保険でも健康保険でも同じです。また、健康保険に加入している人の場合、全国健康保険協会(協会けんぽ)でも会社の健康保険組合の場合でも同じです。
冒頭に紹介した記事でも説明していますが、高額療養費は原則として、一旦窓口で請求された金額(通常は医療費の3割)を支払い、その後に申請書類を提出して還付してもらう流れです。
限度額認定証
限度額認定証は、高額療養費制度をより便利にするツールのようなものです。
前述したとおり、高額療養費は一旦窓口で支払った後、申請書類を提出して払いすぎた分を還付してもらう、いわゆる立て替えが必要になる制度です。
後から返してもらえるのは助かりますが、一旦でもまとまった金額を準備しないといけません。実は筆者も経験がありますが、数十万円ものお金を払うためには複数に分けている口座から払い出しせねばならず、でも手元にあるキャッシュカードは1つの銀行口座分だけ……なんてこともあり得ます。一人暮らしの働き女子が入院した場合などは特に考えられそうですね。
そこで、このような立て替え払いをしなくてすむようにするためのツールが限度額認定証です。限度額認定証はあらかじめ申請して入手しておく必要がありますが、これを会計時に提出することで立て替え払いが不要になります。本来後から戻ってくる高額療養費が、健康保険から自分ではなく医療機関に直接払われるイメージです。詳しい説明は「限度額適用認定証はどこでもらう?急な入院でも慌てないために知っておこう」の記事にあります。ぜひ確認してみてください。
高額医療費貸付制度
高額医療費貸付制度は、高額療養費を前借りするような制度です。
高額療養費制度が、後日申請に基づき、払いすぎた分が還付される仕組みであることはおわかりいただけたと思います。しかし、還付は受診した月から少なくとも3カ月程度かかるとされています。そのため事前に限度額認定証を入手することで、立て替え払いを防げれば良いのですが、急な入院のような場合など、入手が間に合わないケースもあり得ます。
限度額認定証が手元になければ、やはり医療機関に対して請求された金額を支払うことになります。そうすると多額のお金が出ていきますから、今度は還付までの3カ月程度の経済状況が不安定になってしまう心配が出てきます。
そこで、そういう不安を防止するための制度が高額医療費貸付制度です。約3カ月後に還付される高額療養費見込額の8割相当額を無利子で借入れることができます。約3カ月経って実際に高額療養費が支給される際には、前借りした分は差し引かれ、残りの2割相当額が自分に還付される仕組みです。
利息はつきませんからお金の工面が難しい場合には利用すると良いでしょう。ただし、高額医療費貸付金が振り込まれるまでには申請してから2~3週間程度かかります。詳しい説明は「医療費を大幅に下げる!高額療養費の申請の仕方・もらい方~質問編~」の記事にあります。ぜひ確認してみてください。
高額療養費制度の申請先は?ケーススタディでチェック!
年齢および年収によって自己負担限度額は異なりますが、高額療養費制度は公的医療保険に加入している誰にも同様に適用される制度です。
とはいえ、申請先は加入している公的医療保険制度によって異なりますから、自分がどの医療保険制度に加入しているのか確認しておきましょう。公的医療保険には大きく分けて国民健康保険と健康保険があります。自営業やフリーランスの人は国民健康保険、会社員の人は健康保険と大別されますが、健康保険の中には会社や業種ごとの健康保険組合が設けられているところもあります。
よく分からない人は、自分の健康保険証を見てみましょう。健康保険証(カード)の下部分に「保険者名称」として「全国健康保険協会○○支部」とあれば協会けんぽ、「○○健康保険組合」とあれば会社の健康保険組合です。
会社の健康保険組合に加入しているA子さん
まずは会社の担当者に確認してみましょう。会社によっては直接、健康保険組合に連絡できるようになっているところもあるようです。
勤務先にもよりますが、多くの場合は総務や人事を担当している部署、係などが従業員の健康保険関係を担当しています。申請書類も担当者からもらえる場合が多いようです。
協会けんぽに加入しているB子さん
協会けんぽのHPから健康保険高額療養費支給申請書をダウンロードしましょう。必要書類を揃えたら、自分が加入している協会けんぽの支部宛に郵送します。どの支部かは健康保険証で確認してください。
フリーランスで働くC子さん
自分が加入している国民健康保険を管轄する自治体で国民健康保険高額療養費支給申請書を入手します。HPからダウンロードできるようになっている自治体も多くあります。必要書類を揃えて自治体の担当課へ提出しましょう。
夫の健康保険の扶養に入っているD子さん
扶養に入っている健康保険が健康保険組合のものであれば、配偶者から会社に連絡してもらいましょう。協会けんぽであれば、HPからダウンロードし加入している支部へ申請します。
ちなみに高額療養費制度は世帯単位で合算することができます。同月にD子さんだけでなく、配偶者(扶養に入っている子どもがいれば子ども)が医療機関で支払った医療費を合算することができます。とはいえ、世帯のそれぞれが加入する医療保険が異なる場合は合算できません。
必要に応じて医療保険への加入も考えて
今回、高額な医療費を払わなければならない事態になってもお金のことで困らないための高額療養費制度と、それを補う2つの制度を紹介しました。今すぐ必要ではなくても、いざという時にすぐに活用できるよう、記憶の片隅にとどめておいてください。
しかし、そもそも高額療養費制度は公的医療保険の対象とならない診療や治療、費用などには適用されません。たとえば、入院したときの差額ベッド代や先進医療などが該当します。これらは高額療養費が還付されないだけでなく、そもそも病院窓口で健康保険証を出しても3割ではなく100%自己負担になるものです。
医療費負担に不安がある人は民間保険会社の医療保険での備えもしておくと安心です。加入すれば保険料を払わなくてはいけませんから、過度に加入する必要はないですが、たとえば妊娠を望んでいる人や、健康上の不安がある人、フリーランスなどで企業保障がない人などは検討してみてはいかがでしょうか。
(※本ページに記載されている情報は2020年1月27日時点のものです)