出生率の低下を食い止めるために、国はさまざまな子育て支援政策を行っています。出産、育児に関連する社会保障制度にどんなものがあるのかを知っておくことで、仕事を続けながら子育てをすることの心理的なハードルを下げることができます。仕事も子育てもあきらめないワーキングママを目指したい女性は必見です!
仕事も子育てもあきらめない!
知っておきたい出産・育児にまつわる支援制度
2019年2月11日
出産に関する支援制度
出産には何かとお金がかかります。そうした金銭面をサポートするために、健康保険では、出産育児一時金と出産手当金といった給付制度があります。社会保険の加入者以外が加入する国民健康保険には出産手当金はありません。
出産育児一時金
一児につき42万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合は40.4万円)が支給されます。
支給方法は原則として、医療機関に直接支払う仕組みとなっており、費用が42万円以上であれば、差額を医療機関の窓口で支払い、42万円未満であれば、その差額が健康保険組合から被保険者に支給されます。
出産手当金
社会保険の被保険者が出産のために会社を休み、給料の支払いを受けなかった場合に支給されます。支給額は欠勤1日につき、支給開始月以前12か月間の各標準報酬月額の平均額÷30×3分の2となっています。支給期間は出産日以前42日(多胎妊娠は98日)、出産日後56日となっており、出産日が予定より遅れた場合は遅れた日数分も支給されます。
妊産婦のための健康診査
男女雇用機会均等法では、妊産婦のための通院休暇を設けることを定めています。
妊娠23週まで・・・・・・・4週間に1回
妊娠24週~35週まで・・・・2週間に1回
妊娠36週以後~出産まで・・1週間に1回
但し、有給か無給かの定めはなく、会社の規定によります。
また、正常な妊娠は病気ではないため、健診費用は健康保険の対象とはなりません。その代わり、住んでいる自治体が費用の助成を行っています。助成の金額や回数などは各自治体で異なります。
マタハラ防止のための法律
2017年1月に「事業主のマタニティハラスメント(マタハラ)防止措置」が義務化されました。(※)
男女雇用機会均等法では妊娠、出産、育児を理由に解雇や不当な扱いをすることを禁止していますが、これに加えて、事業主は妊娠、出産を理由とした嫌がらせを防止するための処置を講じなければならないとされ、女性が働きやすい環境作りへと一歩前進しています。
※職場における妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(男女雇用機会均等法第 11 条の2、育児 ・ 介護休業法第 25 条)
育児に関する支援制度
仕事を辞めずに、育児に専念できるように、育児休業制度があります。男女の区別なく、また非正社員であっても、条件を満たせば利用することができます。
この期間は、育児休業給付金が支給されます。
育児休業給付
支給要件としては、雇用保険の被保険者であり、原則として、休業開始日前2年間に、被保険者期間が通算して12か月以上であること。1歳未満の子(※)を養育するために育児休業を取得したこと。があります。
支給額は休業開始から180日間は休業開始時賃金日額の67%、181日からの支給額は50%となります。
※パパママ育休プラス制度(両親ともに育児休業を取得)に該当する場合は1歳2か月未満、一定の理由がある場合は2歳未満(平成29年10月から1歳6か月→2歳に延長)となっています。
小児医療費助成制度
健康保険の自己負担分(小学校入学前は2割、小学校入学以後70歳未満は3割)の一部または全額を自治体が助成する制度です。各自治体によって名称は様々で、助成対象の年齢や制度の内容も異なります。
東京都では、小学校未就学児の保険診療の医療費は、健康保険証と医療証(自治体発行)を提示すると自己負担なしとなります。また、小・中学生のお子様においても保険診療の自己負担分の一部を助成する制度があります。
こうした制度によって、就学前の子どもの医療費は無料となるケースがほとんどです。
出産・育児による不利益をなくす制度
健康保険料・厚生年金保険料の免除制度
出産や育児などで働けない期間、健康保険および厚生年金保険の保険料は、事業主の申し出により、会社負担分、本人負担分ともに免除されます。
この免除期間は、将来、年金額を計算する際は、休業直前の月給に基づいた保険料を納めたものとして扱われます。
こうした免除制度は、厚生年金加入者のみにあったため、国民年金に加入している自営業者(国民年金第1号被保険者)にとっては不平等な制度でした。しかしようやく、2019年4月から「国民年金保険料の産前産後期間の免除制度」が始まり、国民年金第1号被保険者が出産を行った際には、出産前後の一定期間の国民年金保険料が免除されるようになります。(※)
※国民健康保険料の免除はありません。また、育児休業中の免除制度もありません。
育児休業終了時の報酬月額変更
育児休業を終えて職場復帰をしても、しばらくは時短勤務を希望する人は多いでしょう。そうした場合、休業前よりも給料が少なくなることがあります。しかし、納める社会保険料は、休業前の給料の額で計算しているため、割高な保険料を払うことになります。こうしたケースの救済として、社会保険料の計算の基礎となる標準報酬月額を、休業後の減った期間3か月の平均額を基にし、4ヵ月目の標準報酬月額から改定されます。これによって賃金にあった保険料の支払いとなります。
養育期間の従前標準報酬月額のみなし措置
上記の制度によって、払う保険料が減ると、将来受け取る年金額も減ってしまいます。育児をしたことで年金が減るというのは納得がいかないところでしょう。
そこで、被保険者の申出によって、標準報酬月額が低下した期間についても、子どもが生まれる前のより高い標準報酬月額で計算した年金額を受け取れるようになります。
この特例は、子どもが3歳までの間、時短勤務などの措置を受けて働き、それに伴って標準報酬月額が低下した場合に受けることができます。
まとめ
世の中いろいろな選択肢があり、働きながら子どもを育てる人、仕事を辞めて子育てに専念したい人、どちらの生き方も尊重されるべきです。しかし、「本当は働きたいのに子どもを産んだことで仕事を続けられなくなった」というケースは、本人にとっても、社会にとっても、非常にもったいなく残念なことです。
仕事は辞めずに、育児休業を取ったり、保育園を利用したりして、子育てとの両立をはかることは、将来の年金額だけを見てもお金の面で非常に有利です。
最近では、育児休業取得の実績がある会社が高く評価されるなど、世の中が変わってきていると感じる一方で、マミートラック※という言葉に象徴されるように、キャリアアップが難しくなってしまう問題はまだ依然としてあります。
しかし、政府が女性の働き方改革を強力に進めていることは、法改正などを見ても明らかです。利用できるものは大いに利用して、たくさんのワーキングママがいきいきと働いている世の中になってほしいものです。
※子どもを持つ女性の働き方のひとつで、仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのこと