2018年に生活保護法が改正され、生活困窮者に対する一層の促進が図られることとなりました。そもそも、生活保護法とはどのような制度で、どのような人が受給することができるのでしょうか。生活保護法の原理や、それに伴う支給の仕組みなどを理解し、必要の際には活用できるよう知識を身に着けておきましょう。
生活保護法改正によってどう変わった?生活保護の内容とは
2021年11月30日
生活保護法とは
生活保護法は、資産や能力など全てを活用してもなお生活に困窮する人に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を促す制度で、日本国憲法第25条の理念を根拠としています。
生活保護の実態
厚生労働省の資料によると、生活保護を受けている人数は2021年4月時点で約204万人となっており、世帯数で見ると約164万世帯となっています。
生活保護は8種類の扶助から構成されており、生活を営むうえで必要な費用に対して扶助額が支給され、それぞれ最低限度の生活を充たす具体的な支給範囲は定められている点が特徴となっています。さらに、扶助は必要に応じて、住宅扶助と医療扶助など併給されることとなっています。生活保護を受けている人数が204万人であるのに対し、扶助の種類別扶助人員の合計は約578万人となっていることから、生活保護受給者は各種扶助を併用受給していることが読み取れます。
扶助の種類
生活保護における扶助は大きく「金銭給付」と「現物給付」に分けられ、さらに以下のように細かく分けられています。
(金銭給付の対象)
1.生活扶助:日常生活に必要な費用(食費や被服、光熱費など)
2.住宅扶助:家賃、住宅補修などに必要な費用
3.出産扶助:出産費用
4.生業扶助:就労に必要な技能修得などにかかる費用
5.葬祭扶助:葬祭費用
6.教育扶助:義務教育に必要な学用品や教材費用
(現物給付の対象)
7.介護扶助:介護サービスの費用
8.医療扶助:医療サービスの費用
生活保護の基本原理
生活保護は以下の4つの基本原理によって支えられています。
1.国家責任による最低生活保障の原理
日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。
2.無差別平等の原理
生活に困窮する全ての国民は、法の定める要件を満たす限り、法による保護を無差別かつ平等に受けることができる。
3.最低生活保障の原理
法により補償される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができる水準である。
4.補足性の原理
困窮する程度に応じて、資産や能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件とする。
さらに、生活保護法にある以下の基本原則によっても支えられています。
1.申請保護の原則
保護を必要とするもの、その扶養義務者またはその他の同居の親族の申請に基づいて開始する。ただし、要保護者が急迫した状況にある時は、保護の申請がなくても、必要な保護を行うことができる。
2.基準および程度の原則
保護は、厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基準とし、その人の金銭または物品で満たすことのできない不足分を補う程度で行う。保護の基準は、要保護者の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別、その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすに十分なものであり、かつ、これを超えないものでなければならない。
3.必要即応の原則
要保護者の年齢別、性別、健康状態などその個人または世帯の必要の相違を考慮し、有効かつ適切に行う。
4.世帯単位の原則
保護は世帯を単位とし、その要否および程度を定める。
生活保護を受給できる人とは?
生活保護の必要性などは、原則世帯を単位として判断されます。世帯の全員が支給を受けるためには、資産や能力のほかあらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを前提としています。
具体的な例として、「資産の活用」とは、不動産、自動車、預貯金等のうち、直ちに活用できる資産がある場合は売却して生活に充てることとしており、「能力の活用」としては、就労できない場合を除いて、就労が可能な人は、その能力に応じて働き、生活費を得ることとしています。また、「その他あらゆるものの活用」とは、年金や手当などの社会保障給付を受けることができる場合はまずそれを優先して活用することが求められます。また、親族等から援助を受けることができる場合は、その援助を受けることも求められます。
そしてそのうえで、世帯の収入と厚生労働大臣が定める最低生活費の基準を比較し、収入が最低生活費に満たない場合に、その差額が保護費として支給されます。
生活保護法の改正
2018年6月に改正された生活保護法では、どのような点が変わったのでしょうか。その内容について以下に解説します。
1.子どもの大学進学などへの支援
貧困の連鎖を断ち切り、生活保護世帯の子どもの自立を助長するため、大学などに進学する際の一時金が創設されました。
2.生活習慣病の予防
生活保護の受給者は、医療保険の加入者と比較して生活習慣病の割合が高いとされていることもあり、生活習慣病の予防を推進する「健康管理支援事業」が創設されました。
3.医療扶助の適正化
医療扶助において、医師が認めた場合においては、原則として後発医薬品を給付することとなりました。
4.単身生活者への日常生活支援
単独での居住が困難な生活保護受給者に対し、サービスの質が確保された施設において、必要な日常生活上の支援を提供する仕組みが創設されました。
病気やケガ、近年では新型コロナウイルス感染症拡大によって思うように働けなくなり、生活困窮に陥る可能性は誰にでもあります。国民の権利として最低限度の生活が保障されており、全ての人が安心して生活を送ることができるための制度が生活保護です。生活保護の申請は国民の権利でもあることから、もしも経済面での保護を必要とするのであれば、ためらうことなく自治体に相談してみましょう。
※本ページに記載されている情報は2021年10月22日時点のものです。