副業を解禁する企業が増えているなか、「労働者災害補償保険法」が改正され、複数の企業から労災の補償を受けられることとなりました。そもそも労災で補償されるものとはどのようなものなのでしょうか。改正の内容を紹介するとともに、今回改正された内容における注意点についても合わせて解説します。
副業していても複数の会社から
労災の補償を受けることができる仕組みとは
2021年5月12日
労働者災害補償保険法とは?
雇用形態を問わず、すべての雇用者の、業務上や通勤途中でのケガ、病気、障害、死亡などを対象として保険給付を行う制度です。保険給付には以下のものがあります。
療養(補償)給付
病院で治療を受けるときに治療費を全額給付してもらえます。
休業補償給付
療養のため働けず、賃金が支払われない際に休業4日目から給付基礎日額の80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)相当額が支給されます。
障害(補償)給付
障害が残ったときに、障害等級に応じて年金または一時金が支給されます。
遺族(補償)給付
死亡したときに、遺族に対し受給資格者数に応じた年金、および特別年金、および特別支給金が支給されます。
葬祭料・葬祭給付
葬儀を行う際に31万5,000円+給付基礎日額の30日分(最低金額あり)が支給されます。
傷病(補償)年金
治療開始後1年6カ月後にまだ症状が固定せず、傷病等級に該当するときは、年金、および一時金、および特別年金が支給されます。
介護(補償)給付
要件を満たす介護を受けているときに、介護費用が支給されます。ただし、上限があります。
二次健康診断等給付
職場の定期健康診断で二次健康診断が必要と判断された際には、二次健康診断・特定保健指導の費用が年に1回、全額給付されます。
これらの給付の呼称は、業務災害の場合には「○○補償給付」、通勤災害の場合には「○○給付」となります。
改正前の問題点
保険給付は、そのケガや病気の原因となる会社等での賃金だけを基に計算されます。
複数の会社に雇用されている場合、いずれかの会社等で負った仕事上のケガや病気により両方の会社等を休まなければならないこともあるでしょう。業務上のケガや病気により会社等を休んだときは労災保険から休業補償給付が支給されますが、改正前はその金額がケガや病気の原因となった会社等での賃金だけで計算されていたため、収入がかなり減るケースがありました。
また、複数の会社等で働くことで労働時間が増加して疲労が蓄積し、ケガをしたり病気にかかったりすることもあるでしょう。これまではいずれかの会社等での労働時間等を基準として労働災害であるかどうかが認定されており、複数の会社等での労働時間を通算したトータルの労働時間は考慮されないことが問題となっていました。
労働者災害補償保険の改正内容
総務省の「平成29(2017)年就業構造基本調査」によれば、副業している人の割合は4.0%、2012年に比べて0.4%増えています。また、働いている人で副業を希望している人の割合は6.4%、2012年に比べ 0.7%の増加です。働き方改革で政府も副業を推進する現在は、さらに複数の会社で働く人が増えていることが考えられます。そのような働き方の変化を踏まえ、今回の労働者災害補償保険の改正で次の2つが変わりました。
1.労災保険からの保険給付を、現在のケガや病気の原因となった会社等での賃金だけではなく、勤務しているすべての会社等の賃金の合算額を基礎にして給付額を計算する。
2.労災の認定時に、個別の負荷(労働時間やストレス)による判定が困難な場合は、総合的な負荷による判定を可能にする。
給付額の計算方法は?
休業(補償)給付は給付基礎日額をもとに計算され、原則として労働基準法上の平均賃金に相当します。計算方法は、
給付基礎日額=(ケガや病気が生じた日の直前3カ月に支払われた賃金の合計)÷3カ月間の暦日数
となります。
改正後は一つの会社で発生した労災事故によりその会社だけでなく副業で働いている会社も休む場合、毎月の収入は複数社分が合算されることとなるため、1カ月の減収を抑えることができます。複数の会社で働く人にとって、収入が大幅に下がらないというメリットは大きいといえるでしょう。
労災認定はすべての勤務先の負荷を総合的に評価
改正によって、1つの会社での労働時間やストレスだけでなく、他の会社での労働時間やストレスをまとめて総合的に評価し、労災認定することが可能になりました。複数の会社等で働くことにより労働時間が長くなること、身体や心にかかるストレスが多くなることなどが考慮されています。
したがって、複数の会社等で働く人にとっては、トータルで労働時間やストレスを判断してもらえるため、労災として認定される可能性が高くなるメリットがあります。ただし、対象となる病気は、脳・心臓疾患や精神障害などに限られることに注意が必要です。
※本ページに記載されている情報は2021年4月15日時点のものです。