深刻化する少子高齢化の中で、将来的な労働人口を維持するために、育児や介護と仕事の両立ができるしくみづくりを目指して打ち出された「働き方改革関連法」。この改革の一つとして導入されたのが「同一労働同一賃金」です。すでに大企業では2020年4月から導入され、中小企業でも2021年4月から導入が始まっています。これによって今後の働き方がどうなるのかについて解説します。
同一労働同一賃金によって
私たちの働き方はどう変わる?
2021年5月7日
同一労働同一賃金とは?
「同一労働同一賃金」とは、パート社員、契約社員、派遣社員について、正社員と比較して不合理な待遇差を設けることを禁止するルールのことです。例えば、各自の基本給について、職業経験・職業能力、業績・成果、勤続年数の評価結果に違いがなければ、正規雇用者と非正規雇用者で同一の待遇(賃金・教育訓練・福利厚生)であることが求められます。言い方を変えれば、正社員と非正社員の間で、業務の内容や責任の程度、人事異動の範囲などに差がある場合は、その差に応じて合理的な範囲の待遇差を設けることは許容されています。
非正規雇用者における不合理な待遇差の改善例
この改正によって実際にどのような改善が行われたのか、裁判所の判例も合わせて紹介します。
「定年」を理由とした不合理な待遇の禁止
定年を機に正規雇用から非正規雇用になった場合に、業務の内容にそれまでと違いがなければ、待遇を悪化させてはいけないということです。65歳で定年退職となり、再雇用制度を利用して、従来の6割の給与で雇用継続されるケースでは、減額された給与に相当する業務量にしなければならなくなります。
「諸手当」における不合理な待遇差の解消
2020年に最高裁判所にて、正社員に支払われる「住居手当」「年末年始手当」などの諸手当や「夏季冬季休暇」といった福利厚生制度が契約社員には適用されないことについて、同一労働・同一賃金違反になるかどうかが争われました。その結果、「年末年始手当」「扶養手当」「祝日給」「夏季冬季休暇」「有給の病気休暇」については、正社員のみに適用されるのは不合理な待遇差であるという判決が下されたことから、今後はそのような待遇差が解消されると思われます。
派遣労働者に対する待遇の変化
非正規労働者に対する待遇の改善策については、上で述べたとおりですが、派遣労働者に対する待遇についてはどのように変わっていったのでしょうか。
「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のいずれかを採用
派遣社員の待遇全般については、「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のどちらかの方式を派遣会社が選択し、決定することになりました。雇用主となる派遣元がどちらの方式を採用しているのかによって賃金や待遇が変わります。
(1)「派遣先均等・均衡方式」:派遣先の正社員の待遇に合わせる
「派遣先均等・均衡方式」を採用すると、派遣先企業で同じ仕事をしている正社員に合わせた待遇になります。派遣社員と派遣先の正社員との間では同一労働同一賃金となりますが、派遣先が変われば、待遇を決める基準が変わります。例えば3カ月ごとに給与水準の違う企業へ派遣された場合は、その都度収入が上にも下にも変動し、結果として収入の不安定化を伴うことに注意する必要があります。
(2)「労使協定方式」:同じ地域で働く同種の職種に合わせる
「労使協定方式」を選択すると、派遣社員の待遇を、厚生労働省が職種ごとに定めている「同種の業務に従事する一般労働者の賃金」と同等以上を支給することを定める労使協定を、派遣元事業主と過半数労働組合または過半数代表者間で締結します。この方式を選択することで、派遣先が変わるたびに収入が上下するという不安定感はありません。ただ同じ地域の同じ職種に従事する人に合わせた賃金水準で決定されるのが一般的であることから、派遣先企業の正社員と同じ待遇になるとは限りません。
通勤交通費が支給される
派遣社員として働く場合、派遣先を選択する際に「通勤手当(通勤交通費)」が支給されるかどうかもチェックポイントの一つになるでしょう。派遣社員の場合は、給与とは別の通勤交通費が支給されない場合がありましたが、これが変更になります。ただし、1カ月当たりの上限が設定されていたり、「派遣社員の交通費の全国平均を時給に換算すると72円になり、72円を時給に上乗せて支給」したりというケースもあるため、詳細については派遣元に確認する必要があります。
派遣社員の賃金が下がることはない
同一労働同一賃金というルールが導入されたことで、賃金が下がる可能性はあるのかという点が気になりますが、「派遣社員の時給は、派遣基準賃金を上回る」ことが求められているため、「同一労働同一賃金」のルールが導入された場合、派遣基準賃金より低い時給の場合はその差額分だけ時給が上がり、派遣基準賃金より高い場合はそのまま維持されることとなります。
正規雇用者の待遇と今後予想される問題点
同一労働同一賃金を導入した結果により、非正規社員の待遇の改善取組が周知されていますが、正規雇用者についてはどうなのでしょうか。企業側としては、非正規雇用者の待遇改善により人件費や福利厚生費の負担が重くなるため、その帳尻合わせとして正規雇用者の待遇が後退することが懸念されています。ただし、基本給を減らすことは難しいため、諸手当に変更が入ることが不安視されています。
また、非正規雇用者のキャリアアップのチャンスが増えるかどうかも問題視されているところです。従来であれば、高度なスキルを要する職務を新たに非正規雇用者に依頼することで、非正規雇用者がさらに経験を積みスキルアップを図る機会となっていたことが今後は難しくなる可能性があります。一方で、今まで正社員と同じような仕事をしていた非正規雇用者にとっては、待遇が改善されることが、キャリアアップのチャンスとなるとも考えられます。
私たちの働き方には様々な形態があります。働き方改革の全体像を理解し、自分の理想とする柔軟な働き方ができるよう、自分自身で積極的に取り組んでいきましょう。
※本ページに記載されている情報は2021年4月15日時点のものです。)