出産時には何が起こるかわかりません。帝王切開、吸引や鉗子による分娩など予定外のことも気になります。こうした万が一に備えるのも生まれてくる赤ちゃんへの思いやりのひとつかもしれませんね。もし、万が一が起こったときには、高額療養制度や限度額適用認定制度によって自己負担を減らすことができます。いざという時のために前もって制度の内容を理解しておきましょう。
出産!いざという時のための
限度額適用認定制度
2020年3月5日
出産準備は整った、さて・・・
お産は生理的な現象であり、病気ではありません。過度な恐怖心を捨てて気持ちを楽に持つことが大切です。お母さん1人の力だけでなく、医師や助産師が赤ちゃんが安全に生まれるのを介助してくれます。
ただ、不安を感じてしまうのは、仕方のないことです。そこで、少しでも不安を軽くするリスク対策として、異常分娩となった場合にどのような医療の制度があるのかを知っておきましょう。少しでもお得な方法を使えるのであれば、金銭面でもちょっと安心できますよね。
異常分娩時に適用される健康保険
原則として妊娠や出産には、健康保険が適用されません。
したがって、妊婦検診費用や出産費用には健康保険が適用されず、全額自己負担することになります。
しかし、出産後の分娩費用には「出産育児一時金」が、出産のために仕事を休んでいた期間の生活費の一部として「出産手当金」が支給されます。
被扶養者である家族が出産したときも同じく家族出産育児一時金が支給されます。
しかし、切迫早産や帝王切開など異常分娩となった場合には、手術料、投薬料、診察料などは医療行為とされ、健康保険が適用されます。このときの自己負担は通常3割です。
さらに高額な医療費がかかった場合で一定の要件を満たすと、高額療養費制度の給付対象となります。
高額療養費制度とは?
高額療養費制度とは、医療費の負担額が高額になったとき一定の金額を超えた部分が後で戻ってくる制度です。ひと月(1日から月末まで)に世帯で支払った医療費を合算し、上限額を超えていたときにその超えた金額が健康保険から支給されます。
では、医療費がいくらを超えたら戻ってくるかというと、年齢、収入、健康保険か国民健康保険かによって細かく分かれています。
表:高額療養費制度 69歳以下の人の上限額 (厚生労働省保険局資料より作成)
30代で年収400万円の人が異常分娩によって、100万円の医療費がかかった例を考えてみます。
まず、健康保険の適用で3割になります。 30万円=100万円 × 30%
次に、高額療養費の上限額はこの例の場合、ウの区分となって次のようになります。
87,430円 =80,100円+(100万円-26.7万円)× 1%
したがって、87,430円を超える部分は申請書を提出すれば高額療養費制度によって還付されます。
還付額は、212,570円 (=30万円-87,430円)となります。
この制度は、さらに世帯で医療費が合算でき、過去12ヵ月で4回以上この制度の対象となると上限額が下がる等のしくみもあります。
還付よりも前に減らすのが限度額適用認定制度
高額療養費制度はあとで戻ってくる制度ですが、最初から自己負担額を少なくする方法もあります。それが「限度額適用認定制度」 です。
加入先の健保又は国保に申請し、「限度額適用認定証」をもらい、健康保険証とともに医療機関の窓口に提示すると、1ヵ月の支払いが自己負担限度額までの金額となります。
制度を知っておこう!
限度額適用認定制度を利用することで出費は最小におさえられますが、それぞれの制度を簡単に比べてみましょう。
出産時の異常分娩対策としては、限度額適用認定制度を考えるだけで十分でしょう。なぜなら、この2つの制度は併用できるからです。つまり、薬代や家族の入院、歯科などでの出費などについては、後で高額療養費の申請をするということもできるのです。
重要なことはどちらの制度も申請しないと適用されないということです。
適用にあたっての留意点とは?
これらの制度適用についていくつか注意点を挙げておきます。
月またぎの支払いに注意
入院期間が月をまたいだときは、医療機関では月の1日から末日までの医療費が別々に計算します。したがって、高額療養費制度の説明をした計算例でも前月50万円と翌月50万円に請求がわかれた場合は自己負担額として、前月82,430円と翌月82,430円となってしまいます。
あらかじめ、予定される入院で月またがりになりそうなときは医療機関に相談してみましょう。
医療機関のレシートに注意
医療機関からの請求書には、差額ベッド代やテレビカード、病衣、食事費等々も一緒に記載されていますが、高額療養費や限度額適用認定の制度の対象となるのは治療に関する請求のみです。
民間の医療保険の適用
異常分娩は、民間の医療保険の適用も考えられます。2回目以降の帝王切開は民間保険では適用が難しいとされますが、民間の医療保険の内容も確認しておきましょう。
クレジットカードの利用
最近は医療機関においてクレジットカードを利用できるところが増えています。ポイ活(ポイントを貯めたり使ったりし、毎日の暮らしをお得にする活動)において、高額療養費制度はとても魅力かもしれません。事前に限度額の確認をしておきましょう。
確定申告における医療費控除の利用
高額療養費や限度額適用認定の制度を利用しても、確定申告における医療費控除も利用できます。自己負担額が10万円を超えた場合には確定申告を忘れないようにしましょう。
いかがでしたか?
出産は不安なことがたくさんありますが、前もって制度の内容を理解しておくことで、いざというときに備えておきたいですね。
(※本ページに記載されている情報は2020年3月5日時点のものです)