“寿退社”という言葉があるように、ひと昔前は、女性は結婚したら仕事を辞めて、専業主婦になることが普通でした。しかし、今ではこうしたライフスタイルは崩壊しつつあります。仕事を辞めずに定年まで正社員で働いた場合と、仕事を辞めて、以後専業主婦でいた場合とでは生涯賃金および年金はどのくらい違うのかをシミュレーションしてみました。
ずっと正社員と専業主婦
女性の生涯賃金はどのくらい違う?
2019年3月11日
正社員で定年まで勤めた場合
女性の場合、出産や育児でどうしても仕事を中断しなければならない時期が訪れると思います。しかし、産休や育休の制度を活用すれば、仕事を続けてキャリアを重ねることができます。そうして定年まで勤めた時に、生涯賃金はどのくらいになるのでしょうか。
定年まで正社員
*生涯賃金(定年60歳まで正社員で働いた場合)
およそ2億円
*退職金(勤続20年以上かつ45歳以上の定年退職者平均)
約2,000万円
*年金(月14万7,000円を25年もらうと仮定)
約4,400万円
合計で2億6,400万円となりました。
職種や勤め先の規模によっても違いますが、おおよその平均値として出しています。
※生涯賃金の数値は「ユースフル労働統計2018|独立行政法人労働政策研究・研修機構」を参照にしました。
※退職金の数値は「平成30年就労条件総合調査の概況|厚生労働省」を参照にしました。
※年金額は「平成29年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」を参照にしました。
次に仕事を辞めて専業主婦になった場合を見てみましょう。
仕事を辞めて専業主婦になった場合
モデルケースとして、30歳で退職し、以後専業主婦でいた場合と、同じく30歳で退職し、子育てが一段落した40歳からパートで働きだした場合の2パターンを見てみましょう。
30歳で退職、以後専業主婦
*生涯賃金(年収400万円と仮定)
約3,000万円
*年金(月8万円を25年もらうと仮定)
2,400万円
合計5,400万円となりました。
30歳で退職、40歳からパート
*生涯賃金(退職前:年収400万円、パート:年収100万円と仮定)
退職前:約3,000万円
パート(20年間):2,000万円
計5,000万円
*年金(月8万円を25年もらうと仮定)
2,400万円
合計7,400万円となりました。
正社員で定年まで働いた場合と退職後専業主婦でいた場合とでは、なんと、2億円以上の差がつきました。
4,000万円のマイホームが5つ買えてしまうほどの差があると考えると驚愕ですね。
女性のワークスタイルの現実は?
株式会社マクロミルが2018年に実施した「共働き夫婦の家事分担調査」によると、夫婦ともにフルタイムで働く家庭は25%ほどとなっています。
※出典:2018年 共働き夫婦の家事分担調査(定量調査編)|株式会社マクロミル
年代が上がるに従って、フルタイム勤務以外での就業が多くなっているのは、子育てが一段落してパートなどで働き出すケースと推測されます。
共働きでない家庭の割合が20代で半分以上というのは、まだまだ女性が働きながら子育てをすることにハードルがあることを感じさせます。
同調査でフルタイム勤務の夫婦の家事分担状況を聞いています。
※出典:2018年 共働き夫婦の家事分担調査(定量調査編)|株式会社マクロミル
これによると、妻がメインで担っているケースが64.4%、夫婦で分担しているケースは30.7%と、フルタイムであっても、家事は女性が中心でやるという意識があることが伺えます。
女性が定年まで正社員で働き続けるには、国の制度、会社の制度を利用するだけでなく、夫婦が協力し合うという姿勢がないと難しいものです。
年代別に聞いた調査では、40代よりは20代の方が家事の分担が進んでいるという結果があり、少しほっとするものがありますが、女性の意識だけでなく、男性の意識改革も必要と言えるでしょう。
「私がずっと定年まで今の仕事を続けていれば、2億円もお金が入る」と夫に言えば、積極的に家事をしてくれるかもしれませんね。
変わりつつある女性のワークスタイル
最近“パワーカップル”という言葉がよく聞かれるようになりました。
定義としては「年収がそれぞれ700万円超えの夫婦」あるいは「夫の年収が600万円以上、妻が400万円以上の夫婦」と言われています。前者はニッセイ基礎研究所の調査によるもので、全体の0.5%ほど、後者は三菱総合研究所の調査によるもので全体の1%となっています。
いずれにしても、ごく少数ということがわかります。
最初に例に出した定年まで正社員で働き続ける女性の場合、昇給率を無視して一律にした場合、年収500万円ほどになるので、夫婦として考えるとパワーカップルにあたるでしょう。
つまり、専業主婦よりも2億円多くなる働き方が日本では極めて少数派と言えるのです。
そう考えると、専業主婦になって2億円損したという考えは、一般的でない例と比べているのでナンセンスかもしれません。
一方で、女性が働き続けることが、収入の面で有利であることは間違いないので、フルタイムでの共働きが女性のワークスタイルとしてもっと一般的になってほしいと願います。
株式会社マイナビが行った「2020年卒マイナビ大学生のライフスタイル調査」(※)では、女子学生の7割超が共働きを希望し、男子学生の4割超が育児休業を取ることを希望してことがわかりました。これは若い世代の意識の変化を感じる結果と言えるでしょう。
※2020年卒業予定の大学生・大学院生4,656名を対象(調査期間2018年11月26日~12月24日)
夫婦共働きの場合、まだまだ女性側の負荷が大きいという現実があります。しかし、国や会社が制度として子育てとの両立を後押ししたり、若い人を中心に男性の家事育児への参加など、少しずつ変わりつつある空気も感じます。
日々の貯金よりも投資よりも、女性がいきいきと働ける状況を作ることが“お金持ち”への一番の近道かもしれませんね。